個人が自身のパーソナルデータをコントロールする「HAT:Hub-of-All-Things」

IoTデバイスから生成されるデータの所有権の問題は、以前書いた記事にあるコネクテッド・カーと同様に議論は尽きません。

IoTデバイス間でのIFTTTのようなデータ共有・コントロールによる連携をユーザーが出来るようになるProtonet社ZOEなどのIoTハブとなる製品や、IoTデバイス間やサービス連携におけるデータコントロールが可能なNeura社のようなSDKを提供するサービスは存在します。

物のインターネット(IoT)に完全なプライバシー保護を具備させようとするNeuraがシリーズAで11Mを調達 | TechCrunch Japan
インターネットに接続されているデバイスの振る舞いををユーザが個人化でき、しかも個人のデータを保護できる、というプラットホームNeuraが、このほどシリーズAで1100万ドルの資金を獲得し、そのSDKをプロモートしていくことになった。このラウンドをリードしたのはAXA Strategic PartnersとPitan..

IoTデータに限らず、デジタル化された自身のパーソナルデータを管理・共有出来るのが、これから紹介する「HAT:Hub-of-All-Things」です。

 

個人が自身のパーソナルデータをコントロールする「HAT:Hub-of-All-Things」

HATは、個人が利用するIoTデバイスから生成されたデータやオンラインサービスのデータなどを、自身が管理し、信頼する第三者への共有までコントロール出来るようにするパーソナルデータ・プラットフォームを提供することによってマルチサイド・マーケットの創造を目指し、英国のウォーリック大学を中心にケンブリッジ大学・エクスター大学などのラッセル・グループ6大学が英国研究会議協議会(RCUK)から120万ポンドの助成を受け、2013年6月に開始した研究プロジェクトです。

マルチサイド・マーケットとは以下3つを指し、パーソナルデータを個人に還元することによって自身での利活用や、個人が信頼する第三者に利活用してもらうことによって、個人に紐づくリッチなパーソナルデータを透明性高く流通させ、個人にも企業にも利益を生み出すプラットフォームを目指しています。

Supply Market:
パーソナルデータを個人に供給するテクノロジーの提供。
e.g. 個人がデータをHATへ取得しコントロールするためのスマートデバイスの開発。

Use Market:
個人がパーソナルデータを自身のために使うサービスの提供。
e.g. 個人が保有するデータを自身で有効活用するためのスマートアプリの開発。

Exchange Market:
個人が消費・購買行動時に、より良い意思決定をするための
データエクスチェンジをサポートする仕組みの提供。

 

このプラットフォームの目的は、生活者側が自身のデータを収集し共有をコントロール出来るようにするというプライバシー保護や消費者権限強化だけではありません。(HATは、企業から還元されたパーソナルデータは個人のものではなく、テクノロジーによって企業がデジタル化した恩恵を受けられているので彼らのものと言及しています。) 一旦個人に戻すことによってデータはリッチになり、そのデータを個人や第三者が最大限有効活用することによって、個人個人の生活の向上はもとより、個人と信頼関係を構築しデータを共有された企業の発展、引いてはそれが経済発展に繋がると考えているからです。

TwitterなどのソーシャルメディアのデータやGoogleでの検索ログ、スーパーなどの実店舗での購買データ・ECサイトでの購買データGPSによるオフライン行動データなどを組み合わせることによって、ユーザーによる生活が一繋ぎに把握出来るようになり、これを企業側がユーザーの同意を得て利用することができれば、企業側が顧客とのエンゲージを高めるための、よりパーソナライズされた新たな方法を構築することが出来るようになるのです。

 

クラウドファウンディングに成功、そして2016年7月βリリースへ

2015年12月にはαリリースし、開発者向けにAPIドキュメントやサンプルスプリクトなどが公開されました。下記いがのページでは、その他にテクノロジーアーキテクチャのブリーフィングペーパーDBドキュメントも公開されています。

Alpha HAT is here! –
Alpha HAT is here! Please note that Alpha HAT Sign-up has ended, you can now get Beta HAT by support us on Indiegogo Following our issue of the HAT technical briefing paper and the pre-Alpha HAT in Oct 2015,  we are now releasing the Alpha version of the HAT for testing by the community. This Alpha &

そして2016年2月にはHATを研究フェーズからビジネスに転換させるため、研究チームから譲渡する形でHAT Foundationとしてローンチし、開発や運営はHATDeX (HAT Data Exchange Ltd) が担っています。

同時に2016年7月のβ版リリースに向けて2月からIndiegogoでクラウドファウンディングを実施し、4月8日までに300名弱の支援を受け目標額である5万ポンドを達成しました。日本でも7月1日から利用可能になるようで、私は100ポンド (HAT Associate Membership) 支援しました。(4月15日時点で終了まであと1日ありますので、もしご興味あればユーザーになれる10ポンド~のご支援を是非。)

IndiegogoHAT! Claim your data: organise, visualise, control

このキャンペーンの目的は資金調達だけでなく啓蒙活動の一貫と言ってもよく、(Indiegogoなので特に)米国でのソーシャルムーブメントを少しでも起こせたらという考えがあったようで、その結果いくつかのWebメディアに取り上げられたことは、一歩前進したと言って良いのではないでしょうか。

HAT personal data store allows you control the data Internet corporations have on you | ZDNet
Internet users hand over vast amounts of personal data to search engines, online shopping sites and social networks every day, not knowing how valuable their data is. The HAT will empower individuals to take control of their digital lives and claim back their data from corporations.

 

アプリやデバイスにHATを組み込むデベロッパーはHAT platform provider (HPP) となり、ユーザーのプライバシー保護やセキュリティを担保し、HPP間のサービス切り替えを保証しなければなりません。HAT Foundationがこのエコシステム内でHPPに対する監視機関となります。

ユーザーは、「Rumpel」というHyperdata BrowserにPC・モバイル端末からアクセスして「Sun HAT」と呼ぶプライベートクラウドサーバーにある自身のデータへアクセスしてデータの確認・追加などができ、「Direct Data Debit」を使って友達や企業などに対してのデータ共有を管理することが出来ます。後々には自宅に設置する「Hard HAT」と呼ぶサーバーも用意するとのことです。

大学による研究チームも引き続きHALL (HAT Living Labs) として、HATのリアルユーザーがデータエクスチェンジをすることによって共創イノベーションを起こすビジネスモデルが出来るのか、実験を行ったり、READiPEDEX (Really Distributed Personal Data eXchange) というプロジェクトでは、NEMODE による助成を受け、ブロックチェーンを適用した分散型のデータエクスチェンジを実現させるためにイニシアティブも開始し、ハッカソンを開催しています。

また、詳細は今後発表されるようですが、HAT Global Festival というHATを組み込んだアプリコンテストを開始するようで、受賞したアプリには賞金やシードファンディング、アクセラレータプログラムが与えられるようです。

 

私が調べられている限りでは、まだHAT platform provider (HPP) は少なく、初期にRumpelが対応するいくつかのWebサービス(カレンダー、Facebook、Dropbox、Spotify、Withings、Fitbit、My Fitness Pal、Fibaro)やiOS位置情報などが対象となるだけで、この考えに賛同するデベロッパーが今後どれだけ出てくるかが重要です。

しかし、現在の世界的なプライバシー保護の機運を考えれば、HATに限らず個人の自己情報コントロールを強化するサービスは徐々に出てくる可能性は高く、社会受容性の高まりとともに、同様のサービス間競争によって質の高いサービスが出てくることを期待しています。

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